コラム

法律や公共政策・社会制度と心理学の関係(1) 

2023.1.19

心理学の研究成果は広く社会で活用されており、法律や政策にも活用されています。 
そして、法律や公共政策に活用されているものもあります。 

法律に関していえば、非常にダイレクトなものとして、裁判心理学というものがあります。
裁判心理学は別名、法廷心理学(psychology of courtroom)や法心理学(psychology of law)ともよばれます。
心理学者が法律問題に関わるようになったのは20世紀初頭のころからでしたが、そのころから裁判心理学の研究や実証がスタートしたと考えられています。
裁判心理学の初期の研究は、犯罪の目撃証言の信用性に関わるものが非常に多くありました。
その後、1960年代中期以降に特にアメリカやイギリス、ドイツなどにおいて、心理学者が裁判に関わる多くの実証的研究や理論的研究を行うようになっていきました。
その背景には、裁判官・弁護士・検察官・陪審員などの裁判に関わる人々が、判決などの司法判断における心理学的な実証的データを理解し、受け入れる土壌が出来上がったことが挙げられます。

裁判心理学において、記憶・認知・情報処理・態度変容・偏見・社会的影響過程・意思決定・集団力学(グループ・ダイナミックス)などが、法廷(司法)における様々な行動に関わる要因として挙げられます。
また、裁判心理学では、人間のあらゆる要因が裁判に関わることから、尋問および自白研究、陪審員の選択、陪審員の意思決定、証言の信頼性評価、証人の信用性を規定する要因、子どもの証言の信用性を規定する発達心理学的要因、判決の心理、被告および被害者の特徴が判決に及ぼす影響などについても研究されています。 

もう1つ、裁判心理学・法心理学に関連するものとして、犯罪心理学という分野があります。
より専門的なカテゴリーわけでは、裁判心理学と法心理学は犯罪心理学という大分類に含まれる小分野というものになります。
「人がなぜ犯罪を犯すのか」については、古代より様々な考察がなされてきましたが、現在、犯罪学・精神医学・社会学・人類学・心理学・法学などの多様な学問分野によって、学際的に研究が進められています。その中で、犯罪心理学は犯罪を心理学的に解明しようとするものであり、大きく分けて以下のような区分があります。 

  1. 犯罪者の心理を分析する犯罪者の心理学的研究 
  2. 目撃者の信憑性や陪審員(裁判員)の評決に及ぼす様々な心理的影響の研究 
  3. 犯罪者の更生(立ち直り)のための心理技法等の研究 

(1)の分野において最初期の研究者として有名なのがロンブローゾです。
ロンブローゾは、犯罪者の形態学的側面のデータを集め、犯罪者に特有の身体特徴を見つけようとしました。
しかし、この決定論的考え方は後に批判されることになります。
その後、犯罪心理学では、精神分析学的理論や情緒障害理論、条件づけ理論、社会的学習理論などに基づくアプローチが盛んに実施されました。
最近の日本の犯罪心理学の傾向として、理論的背景よりはむしろ、実証データの収集に重きが置かれているようです。
そのため、矯正施設におけるテスト結果などが盛んに研究されています。
また、科学警察研究所等の司法機関が犯罪心理学の研究を実施することが多く、様々な研究が進められています。
特にポリグラフという生理指標の測定機器による犯罪の生理心理学的側面に関する研究報告が多い傾向にあります。
ポリグラフとは「ポリ(複数)」の「グラフ(記録)」という意味で、脳波や呼吸、脈波、汗などの様々な生理指標を同時に収集し、そこから「嘘をついているかどうか」を判定することができるというものです。日本では、ポリグラフの結果がそのまま裁判で利用されるケースは少ないですが、欧米などでは非常によく利用されています。 

(2)の分野が前述の裁判心理学・法心理学にあたるものとなります。
また、特に近年、研究が盛んに進められているのが、目撃証言に関する研究における凶器注目効果とよばれるものです。
凶器注目効果とは、目撃者が武器をもった犯人を何らかの状況で目撃した場合、目撃者はその犯人の顔よりも凶器の方に注目し、そのために犯人の顔の容貌に関する知覚や記憶が成立しにくくなる現象のことです。
目撃証言研究で有名な認知心理学者のロフタスらは、ファーストフードの店でレジに凶器(銃)を向けているスライドと、レジに小切手を差し出す客のスライドを呈示して、その時の眼球運動を測定するという実験を実施しました。
結果は小切手よりも多く銃を凝視し、しかも凝視時間も銃の方が長かったというものでした。また、後の記憶遂行でも、凶器の刺激呈示条件で記憶成績の悪いことが示されました。
さらに、凶器注目効果を扱った19の個別研究のメタ分析による結果も、凶器注目効果がバイアス(偏った結果)ではないことを示しています。 

このように、心理学の研究成果は法律の世界でも広く活用されており、私たちの生活になくてはならないものとなっているのです。 


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