コラム

法律や公共政策・社会制度と心理学の関係(2) 

2023.1.26

心理学の研究成果は広く社会で活用されており、法律や政策にも活用されています。 

心理学の研究成果の一部は、広く社会で活用されています。そして、法律や公共政策に活用されているものもあります。
近年、研究が盛んに実施されている分野として、経済心理学(行動経済学)があります。
この分野では、お金に関する利益と損失や意思決定・選択行動などについて研究する分野です。
そして、これらの研究成果は公共政策や社会制度にも活用されるようになってきています。 

私たちは強制されることを嫌い、選択の自由がある状態を好みます。
しかし、考え方の“クセ”の影響で、自由に選べる状況で、自分に不利・損が発生するような選択をしてしまうことが多くあります。
「強制されるのはイヤだ」「でも、自由に選べる状況では悪い方を選んでしまう」というジレンマを解消する方法として、リバタリアン・パターナリズムという考え方があります。
リバタリアン・パターナリズムとは、押し付けや強制ではなく、選択肢は豊富で個人の自由な意思が尊重しつつも、人間が陥りやすい認知の歪みや誤りを考慮した適切な教育・指導をしたり、行政・公的機関がリスクの低い選択肢を積極的に推奨・提示することを指します。
リバタリアン・パターナリズムに基づいて、公共政策や法律・制度などが新たに作られたり、改正されたりしています。 

リバタリアン・パターナリズムの例

 リバタリアン・パターナリズムが活用されている例として、臓器移植への同意者を増やす施策です。
重篤な疾患を患い、臓器移植しか治療法がないという人は多数おり、臓器提供をしてくれる人が多くなれば、彼らが助かる可能性が高くなります。
しかし、臓器提供を強制するわけにはいかず、あくまで個人の自由な意思で提供するか、しないかを決定することになります。
そこで、デフォルト(初期設定)という観点から問題を検討してみることで、ジレンマを解消できます。
臓器移植の同意に関しては、全ての人が臓器提供NOの状態がデフォルトになります。
そして、個人の自由意思で提供OKにもできるし、提供NOのまま変更しないこともできます。
ただし、私たちはデフォルト状態からの変更・変化を嫌い、回避する傾向があります。
臓器移植のケースでは、本当は移植OKの意思を持っているにもかかわらず、デフォルトの「臓器移植NO」から変更することに躊躇してしまう人が多いわけです。
そこで、初期設定を「臓器移植NO」から「臓器移植OK」に設定を変えるという施策が海外で実施されています。
その結果、臓器移植の同意者の数は爆発的に増加し、医療現場での問題が改善しました。 

もう1つのリバタリアン・パターナリズムの例としては、災害時の避難指示に関するものです。
災害時に「避難してください」という情報発信がされても、避難をせずに被災してしまう人が多く存在します。
ただし、避難勧告のレベルによっては強制的に避難するのではなく、あくまで自由意志での避難ということもあります。
また、強制的な避難勧告であったとしても、避難所に強制的に連れてくるわけにはいかず、最終的には個人の選択となるケースが多いです。
そこで、意思決定のフレーム(枠組)を変更することで、自由意志を保ちつつ、避難行動を促進するという方法が取られています。
アメリカで実際に行われたのは「避難しない人は、自分の身体に油性マジックで社会保障番号(自分が誰なのかを示す個人ID)を書いておいてください」という情報発信をするというものです。
単純に「避難してください」と言われると、私たちは生きている状態をイメージし、避難所での不便な生活を頭に思い浮かべ、避難したがらないという傾向があります。
そこで「社会保障番号を身体に書く」ということから「自分が身元不明死体となって水に浮かんでいるイメージ」を頭に浮かべることになり、死を意識させることで避難行動を促進させることができたのです。状況自体は変わらないものの、頭に浮かぶイメージが「生」のフレームなのか「死」のフレームなのかで、私たちの行動は変化するのです。 

 このように、心理学の研究成果は広く公共政策や社会制度の実装において、より良い選択や意思決定ができるように私たちをサポートするということにも活用されています。 


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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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