コラム

絵と心理学の関係 

2023.3.2

絵を描いたり、見たりするという行動は心理学にどのような意味があるのでしょうか。
実は「絵」と心理学には、様々な場面で関係があるのです。 

私たち人間は何らかの形状を持ち知覚体験を生じさせる「図」の部分と、背景となって 顕在的に意識されない「地」の部分に分かれて知覚するという能力があります。
ただし、この関係性が頻繁に入れ替わる図と地が曖昧な図形もあります。
たとえば、「ルビンの壺」とよばれるものが有名です。
ルビンの壺は黒い複雑な形をした壺にも見えるのですが、背景の白い部分に注目すると、向かい合った人間の横顔に見えます。
このように黒と白の部分が図にもなり、地にもなってしまうのがルビンの壺なのです。
私たちはこのように、絵を見るという能力が備わっているのです。
そのため、絵画などのテクニックも、この図と地の要素を逆に利用しているわけです。 

また、私たちは絵を見る際に錯視という現象が発生する場合があります。
代表的な錯視にはミューラー・リヤ―の錯視というものがあります。
これは、ドイツのミュラー – リヤーが19世紀末に発見したものです。
これは、本来、同じ長さの線分が、開いている矢羽根と閉じている矢羽根による錯視で、閉じている矢羽根の線分の方が短く見えるというものです。

一方で、このような錯視が発生しにくくなるということも判明しています。
これは、カーペンタード・ワールド仮説とよばれており、錯視が成立するには、文化的・社会的要因が影響しているという仮説です。
たとえば、直線や四辺形で構成される西洋的建築環境(人工的環境)で成育した人は、そうでない人と比べて、ミュラー – リヤー錯視がより多くなるというものです。 

このように、絵を見る際に、錯視やカーペンタード・ワールド仮説などの視覚における心理学的な影響を考えながら、もしくは逆に利用しながら、芸術的な絵画は作成されている場合があります。 

 心理検査においても、絵を使ったものがいくつかあります。
ロールシャッハ・テストは、そのものずばり、心理学者のロールシャッハが開発したものです。
ロールシャッハの父親は画家・美術教師であり、その影響で子どもの頃のロールシャッハはいつも絵を描いてばかりいたということで、当時のあだ名はドイツ語で「インクの染み」をあらわす「 Klecks 」であったと言われています。
元々、絵画や美術に興味・関心を持っていたロールシャッハが精神分析を学ぶことで、ロールシャッハ・テストが誕生する基盤が出来上がったわけです。
ロールシャッハが初めてインクブロットを用いて研究を行ったのは1911年で、学校の教師をしていた友人の協力を得て児童や患者を対象にテストを実施しました。
そこで、児童の才能とテストでの創造力の相関について検討しています。これが、ロールシャッハ・テストの開発のきっかけとなっています。 

 TAT(主題統覚検査)は、アメリカのモーガンによって開発されたもので、ある場面を描いた絵に対して作られる空想的な物語の内容から性格の特徴を明らかにしようとする心理検査です。
被検査者は、提示された絵画の人物の性格・感情・現在・過去・未来などを空想し自由に語ることで、被検査者に投影された主題が示されるとされています。 

P-Fスタディはローゼンツァイクが作成したテストで、24の欲求不満場面をイラストで提示し、それへの反応を記入させるものです。
他人から害を被った場面、欲求不満が喚起される場面などがイラストで示され、被検査者は空白の吹き出しが描かれている人物に同一視し、吹き出しの中に記入させるというものです。 

バウムテストは、コッホが考案した描画テストで「実のなる木」を描いて下さいと 教示し、後でその説明を求めるものです。描かれた樹木の形状を分析したり、鉛筆の動きを観察したり、紙面における配置の意味を読み取ったりして、精神の内面を推測していくという心理検査になっています。 

HTPテストは、家(House)、木(Tree)、人(Person)の頭文字を取ったもので、それぞれ別のB5 判のケント紙、または1枚の紙に家と木と人を描いてもらうというものです。
家・木・人を描くことで、無意識の内容や人格構造などの診断に有用だとされています。 

このように、絵を描くことや絵を見ることは、基礎心理学における知覚心理学や臨床心理学における心理検査などにおいて活用されているのです。 


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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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