コラム

心理学の検定では、どんな問題が出題される?

2022.9.8

心理学の検定においては、どのような問題が出題されやすいのでしょうか。 

心理学には、基礎心理学と応用心理学、そして、臨床心理学という分野が大分類として存在しています。
そして、心理学の検定でも、この基礎・応用・臨床というカテゴライズに基づいて、出題される問題も作成されています。
では、より具体的に、基礎心理学・応用心理学・臨床心理学のそれぞれの検定で、どのような問題が出題されやすいのでしょうか。
代表的な基礎心理学として、学習心理学・認知心理学・生理心理学・知覚心理学・社会心理学・感情心理学・発達心理学・パーソナリティ心理学・心理統計学などがあります。

一方で、応用分野には、臨床心理学、健康心理学、産業・組織心理学、教育心理学、家族心理学、学校心理学、経済心理学、犯罪心理学、福祉心理学、コミュニティ心理学などがあります。
そして、この応用分野の中の臨床心理学において、心理カウンセリング、心理アセスメント、心理療法、心理検査法などの分野が含まれています。
本コラムでは、これらの分類に基づいて、どのような問題が出題されやすいのかについて、解説していきたいと思います。 

基礎心理学の場合

学習心理学の場合(こころ検定4級) 

 学習心理学は行動・反応を対象とした基礎心理学の分野です。
そのため、出題されやすいのは、行動のメカニズムに関する基本的な理論となっています。学習心理学の最も基本的な行動メカニズムの考え方はレスポンデントとオペラントという2つの概念です。
レスポンデントとは、たとえば「梅干しを見ただけで、唾液が出る」のように、生まれつき備わっている刺激と行動(反応)に関する概念です。

一方で、オペラントとは「信号が赤から青に変わったら、横断歩道を渡る」のように、生まれた後に学習・獲得された刺激と行動(反応)に関する概念です。 

このレスポンデントとオペラントという概念が学習心理学の基本中の基本であり、この2つからさらに応用的な研究が進められているというものになります。
従って、基礎心理学に関する検定において、学習心理学に関する問題が出題される場合は、まずはレスポンデントとオペラントについて正確に理解しておくのがいいでしょう。 

認知心理学の場合(こころ検定4級) 

認知心理学では、人間の認知機能である記憶・思考・判断・評価などを対象とした基礎心理学の分野です。
その中で、特に出題されやすいのは、記憶に関する仮説や理論についてです。 

人間の記憶は段階と容量という意味で、3つの種類あり、これらは、それぞれ異なる「箱」のような構造になっています。
これらは、それぞれ、感覚記憶・短期記憶・長期記憶となっています。このうち、長期記憶がいわゆる私たちが普段「記憶」とよんでいるもののイメージです。
短期記憶から長期記憶へと移された情報は、ほぼ永久に保持されます。
そして、長期記憶には大きく分けて、3つの種類があります。

1つ目は、エピソード記憶というものです。
これは「昨日、私は夕食にステーキを食べた」のように、自分自身が経験・体験した過去の出来事に関する記憶です。

2つ目は意味記憶とよばれるものであり、これは単語の意味などを辞書的に覚えているというものです。

そして、3つ目は手続き記憶とよばれるものです。
手続き記憶とは、クロールによる泳ぎ方や自転車のこぎ方などのように、身体の動かし方に関する記憶です。
これらの身体の動かし方についても、一度、覚えてしまえば生涯、忘れることがないものなので、長期記憶に分類されます。 

基礎心理学に関する検定において、認知心理学に関する問題が出題される場合は、まずは記憶に関する分類や専門用語を覚えるのがいいでしょう。 

生理心理学の場合(こころ検定4級) 

生理心理学は人間の体(脳・神経など)と心の関係性などを対象とした基礎心理学の分野です。
その中で、特に出題されやすいのは、ストレスに関する仮説や理論についてです。 

ストレスの原因となるものはストレッサー、ストレッサーへの抵抗から身体・心に現れるものをストレス反応とよびます。
人間の精神状態はゴムボールに例えることができます。
ストレスの無い状態では凹みや歪みの少ない球体ですが、ストレッサーが出現することによって、圧力を受けた分が凹んだり歪んだりします。

しかし、人間の精神はゴムボールのように弾力性があるので、ストレスの無い状態に戻ろうとする機能があります。
このストレッサーに抵抗して元の安定した状態に戻ろうとする作用をストレス反応とよびます。
そして、人間はストレスを感じると交換神経が活性化し、逆にリラックスすると副交感神経が活性化します。
つまり、人間の身体全てに関わる自律神経とストレスには密接な関係があるということなのです。 

基礎心理学に関する検定において、生理心理学に関する問題が出題される場合は、まずはストレスの基礎知識と自律神経との関係性について勉強しておくのがいいでしょう。 

知覚心理学の場合(こころ検定4級) 

知覚心理学は人間の目・耳・鼻・舌・皮膚の5感を対象とした基礎心理学の分野です。
知覚心理学で特に出題されやすいのは、目、つまり視覚に関する仮説や理論などについてです。
少し変わった出題形式にはなりますが、画像が提示され、その画像が何という錯視図形なのかを解答させるという問題が出題されることがあります。
有名な錯視図形には、矢羽根のような画像で、本来は同じ長さなのにもかかわらず、線分の長さが異なって見えてしまうというミューラー・リヤー錯視というものがあります。 

 基礎心理学に関する検定において、知覚心理学に関する問題が出題される場合は、代表的な錯視図形の概要とその名称を覚えておくといいでしょう。 

社会心理学の場合(こころ検定4級) 

 社会心理学は個人ではなく、集団の心理を対象とした基礎心理学の分野です。
そこで、特に出題されやすいのは集団意思決定に関する問題です。 

集団意思決定は個人による意思決定よりも極端になり易いということが判明しています。これを集団極性化とよびますが、集団極性化には2つの方向性があります。 

  1. リスキー・シフト 
    個人で単独に決定を行った場合よりも、集団討議を経た後の決定の方が、より危険性の高い勇ましい(リスキーな)決定になってしまうこと。これは,選択葛藤問題とよばれる一連の問題項目を用いた研究で見出されており、当初予測された集団や官僚制の保守化傾向とは異なる結果となりました。その理由として、集団によって、勇ましい議論が出がちであること、責任の分散が生起することなどが考えられます。 
  2. コーシャス・シフト 
    リスキー・シフトとは逆で、場合によっては集団の方がより慎重な(コーシャスな)決定がなされることもあります。研究の結果、コーシャス・シフトも、個々人がもともともっている傾向が集団全体としてより強められる集団極性化の1つと考えられるようになりました。 

基礎心理学に関する検定において、社会心理学に関する問題が出題される場合は、集団極性化、そして、リスキー・シフトとコーシャス・シフトについて正確に理解しておくといいでしょう。 

感情心理学の場合(こころ検定4級) 

 感情心理学は抑うつや怒り、不安などの感情を対象とした基礎心理学の分野です。
特に感情心理学の基礎理論として重要なのは、人間の表情と感情の関係 

発達心理学の場合(こころ検定3級) 

 発達心理学は人間の精神的な発達を対象とした基礎心理学の分野です。
発達心理学は赤ちゃんから高齢者まで、長い期間を研究対象としていますが、特に子どもから大人へと変わる青年期に関する発達理論は非常に重要です。 

 発達心理学者のエリクソンが提唱した漸成発達論は、赤ちゃんから大人になるまでの発達段階に関する理論ですが、特に重視されているのが青年期の段階です。
エリクソンは青年期が「自分とは何か?」ということが発達課題となる段階であると述べています。
これはアイデンティティ(自我同一性)とよばれるものであり、アイデンティティが確立できるか、拡散されてしまうかが、その後の「大人」としての人生を決定づけるものであるとされています。 

基礎心理学に関する検定において、発達心理学に関する問題が出題される場合は、まずはエリクソンの発達理論について正確に理解しておくといいでしょう。 

パーソナリティ心理学の場合(こころ検定3級) 

パーソナリティ心理学は人間の性格を対象とした基礎心理学の分野です。
パーソナリティ心理学には、様々な理論がありますが、重要なのは類型論と特性論という考え方です。 

いくつかのパーソナリティの典型を想定し、いずれの典型に近いかという発想から捉えるという考え方を類型論、パーソナリティをいくつかの構成要素(次元)に分け、それぞれを記述することで全体を捉えようとするのが特性論です。
類型論で最も有名なのがクレッチマーによる分裂気質・循環気質・粘着気質という分類です。

一方、特性論では「外向・内向」(向性)、「神経症傾向」 ・「気分の易変さ」といった複数の特性をそれぞれ記述することでパーソナリティ全体を説明する方法をとります。
類型論の方が個性を直観的に捉えやすいという特徴があり、特性論は細かな違いを記述し、定量化することに効果的であるという特徴があります。 

基礎心理学に関する検定において、パーソナリティ心理学に関する問題が出題される場合は、まずは類型論と特性論について整理しておくといいでしょう。 

応用心理学の場合

産業・組織心理学(こころ検定1級) 

 産業・組織心理学は、仕事や職場における心理を対象とした応用心理学の分野です。
産業・組織心理学では、仕事を通じた対人関係に焦点を当てた研究が多く、その中でもリーダーシップに関する理論は基礎的なものとして重要です。
特にその中でも代表的かつ基本的なものとして、PM理論があります。 

 PM理論とは、日本の社会心理学者である三隅二不二先生が提唱したリーダーシップに関する理論です。
PMの「P」とは「Performance」の頭文字であり、「M」は「Maintenance」の頭文字を表しています。
PM理論は組織や集団の持つ機能という視点から、リーダーシップについて検討し、リーダーシップの類型化を行っています。
集団機能とは、集団・組織における課題の解決や目標達成、そして、集団・組織を存続・維持させることという大きく2つの側面で構成されています。
このうち、集団・組織の課題解決や目標達成の機能をPerformance Function(P機能)とよび、集団・組織の存続や維持に関する機能をMaintenance Function(M機能)とよびます。
三隅先生はこの集団機能の概念を、リーダーシップを説明する枠組として理論化したのです。 

応用心理学に関する検定において、産業・組織心理学に関する問題が出題される場合は、まずはリーダーシップに関する理論、その中でもPM理論を勉強しておくといいでしょう。 

教育心理学(こころ検定3級) 

教育心理学は、学校生活やテストの作成、成績評価、教授方法などを対象とした応用心理学の分野です。
教育心理学では、どうすれば多くの児童・生徒に学習内容を効果的に理解させることができるかという点について、心理学的な観点から研究が実施されています。 

 教育の適性さに関する理論として代表的なものとして、適性処遇交互作用というものがあります。
児童・生徒には当然、個人差があり、どのような適性があるかも様々です。

たとえば、人見知りをしてしまう子どもと、そうでない子どもの場合、授業中に何か分からないことがあったとしても、人見知りをする子どもは先生に質問することができないことが多いかもしれません。
そこで、予め「人見知り度」を測定するためのアンケートを実施し、児童・生徒全員の「人見知り度」を測定しておきます。
そして、「人見知り度」が低い児童・生徒には、通常のどおりの対面で授業を実施します。
そして、「人見知り度」が高い児童・生徒には、オンライン授業で質問をチャットで個別に対応するようにします。このように児童・生徒の適性に合わせた授業手法を取り入れていくのが、適性処遇交互作用なのです。 

応用心理学に関する検定において、教育心理学に関する問題が出題される場合は、まずは適性処遇交互作用という専門用語の意味について覚えておくといいでしょう。 

臨床心理学(こころ検定1級・こころ検定2級) 

 臨床心理学は心理カウンセリング、心理アセスメント、心理療法、精神医学、メンタルヘルスなどを対象とした応用心理学の分野です。
臨床心理学は精神疾患とその治療・支援に関する問題が出題されることが多いと考えられます。そこで、代表的な精神疾患として、うつ病に関する問題、そして、うつ病をはじめとする精神疾患の治療・支援に効果的であるとされている認知行動療法について、正確に理解しておくことが重要です。 

うつ病は抑うつエピソードとよばれる精神状態が持続していることが診断の基準となっています。抑うつエピソードとは、以下のような状態を指します。 

  1. ほぼ1日中、ほぼ毎日抑うつ状態。 
  2. ほぼ1日中、ほぼ毎日、ほぼ全ての身体的・精神的な活動への興味が減退し、ポジティブな感情(楽・喜・快)が起こらない。 
  3. 食事に関して医学的理由や健康維持などの制限がないにもかかわらず、大幅な体重の 減少または体重の増加、または、ほぼ毎日、食欲が減退または増加している。 
  4. ほぼ毎日の不眠または過眠の状態である。 
  5. 客観的に観察可能な精神運動焦燥または制止がほぼ毎日ある。 
  6. ほぼ毎日、疲労感もしくは気力の減退がある。 
  7. 無価値感、過剰または不適切な罪責感をほぼ毎日感じている(妄想的な場合もある)。 
  8. ほぼ毎日、思考力、集中力の減退や意思決定が困難な状態である。 
  9. 死について繰り返し考える。自殺に関する計画の立案することがある。 

 うつ病は抑うつ(落ち込む)という感情という状態が主症状ですが、より重要なのはそのような感情を抱いてしまう認知的過程です。
なぜ、落ち込んでしまうのか、なぜ楽しくないのか、嬉しくないのか、ということを考えると、それは出来事や体験・経験をポジティブなものである(ネガティブなものではない)と判断・評価することが困難になってしまっているからであると考えられます。 

前述のうつ病の治療・支援に、現状、最も効果的であるとされているのが認知行動療法です。
認知行動療法は、認知心理学や学習心理学(行動分析学)の理論に基づき、既存の認知療法や行動療法の技法を統合する形で誕生したものです。
クライエントの認知・感情・行動の相互作用として、精神疾患や各種症状が起きているという考えに基づき、主にクライエントの認知に働きかけることで、問題の改善・解決を進めます。
私たちは日常生活において、出来事を知覚し、知覚した出来事を認知し、認知の結果として、感情が起こり、感情によって行動が変化します。
精神面の問題に対する治療・支援において、知覚をコンとロールすることは非常に困難です。
なぜなら、知覚とは見る・聞くということと同じであり、クライエントの生活そのものを制限することになってしまうからです。
そこで、知覚の次に来る認知の部分を上手くコントロールすることで、その後の感情や行動の問題を改善していくというのが認知行動療法なのです。認知行動療法は動物や人間に対する科学的な実験・調査の結果を応用しており、論理的かつ客観的な手法となっています。
また、最近では、ACT(アクセプタンス・コミットメントセラピー)やマインドフルネスなどの新たな潮流も起きており、治療・支援だけではなく、再発防止という観点からも発展が進んでいます。 

このように、基礎心理学・応用心理学(臨床心理学)に関する検定では、それぞれの分野の「基本中の基本」となるような理論や専門用語が出題される可能性が高いです。
検定の受検を考えている方は、まずは本コラムで解説した部分から勉強してみるといいのではないでしょうか。 


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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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