コラム

こんな時だからこその心理学・メンタルへルス Part1

2020.5.1

現在、世界的に新型コロナウィルスによる感染症対策のため、緊急事態宣言と外出を含む様々な活動の自粛要請が発令されています。このような状況下において、まずはウィルス感染の防止や医療崩壊の防止が最重要課題ですが、同様にメンタルへルス対策も非常に重要な要素となっています。

今回は、このような状況下において重要となる心理学・メンタルへルスについて解説していきたいと思います。

本コラムを執筆している4月28日時点では、東京都をはじめとする多くの地域で緊急事態宣言と様々な自粛要請が発令されています。
おそらく、多くの方々にとって、このような事態は初めての経験であり、ストレスを抱えている人も多いのではないかと思われます。

このような状況下でこそ、科学的根拠に基づいた心理学・メンタルへルスの知見が役立つと考えられます。

まずは、情報収集とその処理などの認知機能について考えてみましょう。

新型コロナウィルスは「新型」という名前が示す通り、これまでになかったウィルスであり、世界中の誰もまだ完璧な対策を構築できていません。
そのため、科学的データに基づく情報から、非科学的な見解、単に個人の意見など、様々な情報が錯綜しています。

これらの様々な情報から正しいものを見極め、それを自分の行動に活かしていくことが重要です。
まず、情報を正しく認知することができるかどうか、それ如何によって、次に続く感情や行動が変化します。
従って、認知機能を正しく維持することが、メンタルへルスの維持・向上において要となるのです。

公衆衛生は“公衆”を守るもの

新型コロナウィルスは一個人が病気に罹るかどうか、という問題ではおさまらず、家族や学校、地域、国という大きな単位で考えなければならない問題です。
そこで、ニュースなどでも公衆衛生の専門家の先生方が解説やコメントを求められることが増えています。

公衆衛生とは、集団の健康の分析に基づく地域全体の健康への脅威を扱う学問分野であり、私たちが単に病気ではないというだけでなく、身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態を維持することを目的としています。

ここで重要となってくるのは、「公衆」という言葉の意味です。
これは心理学や社会学で定義されているもので、「公衆」とは主体的・合理的に判断し行動する人々であるとされています。一方で、「公衆」とは逆の状態なのが「大衆」です。

「大衆」とは受動的・非合理的に判断して行動する人々であるとされています。
様々な情報が錯綜する中で、ただそれらを信じ込んで行動してしまう人は、受動的・非合理的に判断をしているということになるので、「大衆」ということになってしまいます。

たとえば、トイレットペーパー等の買いだめなどは大衆的な行動が引き起こしてしまった騒動であると考えられます。
実際には、新型コロナウィルスとトイレットペーパーの需要・供給の間に関連性は低く、そもそも備蓄量は十分にあるため、冷静に合理的に判断すれば、買いだめという行動は起こらなかったはずです。

情報はただ受け取るだけでなく、受け取ったものを自分自身で吟味して論理的に分析してはじめて、意味のある情報になります。
公衆衛生という学問・サービスも主体的・合理的な判断ができる公衆の健康を守ることはできても、受動的・非合理的に判断・行動してしまう大衆の健康は守れません。

ただ情報を鵜呑みにするのではなく、一旦、立ち止まって冷静に考えてみるということが重要なのです。
これらは、心理カウンセリングにおける認知行動療法やマインドフルネスなどのアプローチにも共通するものであり、情報処理という認知機能を適切にコントロールすることは、メンタルへルスの第1歩と言っても良いでしょう。

安全 >>>>> 安心 という正しい構図

私たちは感情に振り回されてしまいがちであり、それは現在のような緊急事態において、より顕著になりがちです。
私たちは気持ちの面で安心したいがために、自分にとって都合の良い情報ばかりを集めてしまう傾向があります。

しかし、気持ちが落ち着く「安心」よりも、科学的データや数値、確率に基づいた「安全」の方がはるかに重要であるということを意識しなければなりません。
新型コロナウィルスに関する様々な情報が氾濫する中で、注目しなければならないのは数値データが根拠としてあるのか、科学的なエビデンスがあるのか、ということです。

数値などの論理的な証拠を追いかけるという行為は、「安心」を得るために偏った情報を収集してしまう私たちにしっかりとブレーキをかけ、冷静さを取り戻させてくれます。
科学的根拠や数値データという明確な指針があれば、感情に振り回されることも少なくなり、公衆としての判断・行動が可能になります。

現在、仕事や遊び、帰省なども自粛されている状況において、直接、他者と対面してコミュニケーションを取ることは困難です。
そのため、インターネット等のオンラインでのコミュニケーションや情報収集が多くなります。

その際に、常に論理的・合理的な判断と評価ができることが、新型コロナウィルスへの適切な対策になると同時に、メンタルへルス対策にもなるのです。

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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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