こころ検定4級では、物事の捉え方や考え方と心の関係についての分野である、認知心理学について解説しています。
物事を捉える・考える前に、私たちはそれらを知覚しています。
知覚とは目で見ることや耳で聞くことなどです。
まず、目で見たり、耳で聞いたりすることから、私たちの心の動きはスタートしています。
その上で見たこと・聞いたことをどのように捉えるのかが非常に重要となります。
ストレスを感じるか感じないかも、見たり聞いたりした出来事をどう「認知」したのかによって決まります。
同じ出来事や状況で、同じものを見て、同じものを聞いたとしても、それをどう捉えるのか、どう考えるのかは、人によって異なるのです。
私たちはしっかりとモノを見て、聞いて、生活をしています。
しかし「見えているのに気づかない」とか「聞こえているのに気づかない」という現象が起きることがあります。
認知心理学の有名な実験で2つのチームでバスケットボールの試合をする映像を実験参加者に見てもらうというものがあります。
試合の映像自体は短いものですが、この映像をしっかり集中して見てもらうように実験参加者に伝えます。
2つのチームは分かりやすく、Aチームは白のユニフォーム。Bチームは黒のユニフォームを着ています。
そして、実験参加者は「白いユニフォームを着ているAチームが何回ボールをパスするかを数えてください。それ以外の部分には一切、注目する必要はありませんので、Aチームのパスの回数だけに集中してください。
映像を見終わった後で、何回だったか回答してください」と伝えられます。
このように伝えられた実験参加者はしっかりと目を凝らして、白いユニフォームのAチームの動きを追います。
そして、パスの回数を回答することについては、ほぼ全員が正解することができます。
しかし、この実験の本当の目的はパスの回数が正確に答えられるかではありません。
実はバスケットボールの試合の映像の途中で、AチームともBチームとも関係なく、突然、ゴリラの着ぐるみを着た女子学生が登場し、選手たちの間に入り込み、映像を撮っているカメラの方をしっかりと向き、ウホウホと胸を叩き、そのままバスケットコートから立ち去っていくのです。
映像ではしっかりとこのゴリラが映っています。しかし、Aチームのパスの回数を答えてもらった後で「ちなみに、バスケットコートにゴリラがいたのは分かりましたか?」と実験参加者に確認すると、なんと約半数は「まったく気がつかなかった」と答えたのです。
この実験状況を少し専門的な観点から整理すると、まず実験参加者は全員、ゴリラを目で知覚しています。
しかし、映像を見る前に「どこに注目して欲しいか」を伝えられることで、知覚に影響はなくても、認知が影響を受けることになります。
そのため、パスの回数だけが注目され、ちゃんと見えているはずのゴリラという情報が処理されないという状態になってしまうのです。
また、約半数の実験参加者はゴリラに気づかなかったわけですが、逆に言えば、もう半分の実験参加者はゴリラに気づいていたわけです。
みんなが同じ映像を見たにもかかわらず、見えた人と見えなかった人に分かれたのは、認知次第で見えるものが変わるということであり、認知には個人差があるということを示しています。
認知心理学の知見は見えるはずのモノを見えなくしてしまうことができるわけですが、これは手品やマジックなどにも活かされています。
バスケットボールとゴリラの実験の時と同じように、手品やマジックでは、「ここに注目してください」と口頭で伝えたり、派手な演出で聴衆の視線を特定の部分に集中させたりします。
実はその間に何かを動かしたり、消したりしているわけです。
聴衆は全員、しっかりとそれを「見ている」はずなのですが、認知機能として知覚した出来事を処理できていなければ、理解できずに、勝手に消えてしまったように感じてしまうのです。
このように、認知心理学は一見すると不思議な現象や、手品やマジックなどのエンターテイメントにも関係があります。認知心理学の専門家の中には、認知心理学の研究の傍ら、その知見を活かしてマジシャンとして活躍している人もいます。
この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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