コラム

感情とは何か?

2023.1.19

感情とは、科学的に考えた場合、一体、どのようなものなのでしょうか? 

一言で「感情」といっても、日本語も外国語も実は関連する用語が多種多様であり、感情をどの範囲に規定するか、また用語をどのように用いるかによって、ニュアンスが異なるものとなっています。

たとえば英語では「emotion」という用語が一般的に用いられますが、「 affect 」という言葉もあり、「 emotion 」の上位概念が「 affect 」であると見なす場合があります。
日本では「emotion」という用語における動的な側面を強調する場合は「情緒」や「情動」と訳し、「 feeling 」を「感情」と訳すことが一般的でした。

1992年に発足した日本感情心理学会において「 感情 = emotion 」を学術用語として使用すると定義しています。
ただし、日常用語として用いられる「感情」は感情の意識化された主観的成分を強調して用いられる場合が多く、emotionというよりaffect(affection)や feelingといった英語に近い意味で用いられる場合が多いという違いがあります。 

感情の心理学的研究の先駆けとなったのは、ダーウィンの『人及び動物の表情について』という著作であるとされています。
ダーウィンは、感情は進化の長い淘汰の産物であり、人間を含む動物は系統発生的に連続した感情に固有の身体反応・生理反応を持つと考えました。
このダーウィンの考え方に影響を受けた理論・仮説として、心理学者のジェームズが中心となって提唱した感情の末梢説(ジェームズ = ランゲ説)や、心理学者のキャノンが中心となって提唱した感情の中枢説(キャノン = バード説)や、ジグムント・フロイトが提唱したヒステリーを感情の力動的特性から説明する理論などがあります。 

その後、ダーウィンやジェームズらの影響を受け、心理学者のトムキンスは人間の表情と感情に関する理論である顔面フィードバック仮説を提唱しました。
また、トムキンスの弟子である心理学者のイザードは感情の心理進化説を提唱し、心理学者のエクマンは感情の文化説を提唱しています。
また、より積極的・具体的に感情を進化論から考えた専門家としては、心理学者のプルチックが有名です。
これらの感情に関する理論が発展していった背景には、世代や人種、国や文化を超えて、ある程度共通するものとしての「基本感情」があるということが研究によって判明したことが大きな要因です。 

さらに、心理学の中で認知心理学の分野が発展する中で、感情の研究は認知との関係から進められていくことになりました。
心理学者のシャクターが提唱した認知説の影響を受けた心理学者のアーノルドは、感情の出現に先行する事態評価の重要性を指摘しました。
同様に心理学者のラザラスは、事態評価を個体の健康的生存の可能性に関する一次評価と対処可能性に関する二次評価の部分に分けて論じました。
これらは、感情は感覚刺激によって直接に喚起されるものではなく、事態の評価という認知過程を経て後に出現するという考えに基づいています。
私たちは何かしらの出来事を知覚(見聞き)し、その出来事について評価(自分にとって都合が良い・都合が悪い)します。
そして、都合が良ければポジティブな感情、都合が悪ければネガティブな感情が発生します。
つまりは、突然、感情だけがフッと湧き出すということはまずなく、何らかの出来事とそれに対する認知というプロセスが感情の発生にとって欠かせないものであるということになります。
出来事・認知は「感情の発生する前」に関する事柄ですが「感情が発生した後」の事柄も重要です。特定の感情が特定の行動を発生させることがあります。
たとえば、怒りの感情は攻撃行動と関連が強く、恐怖の感情は逃避行動を引き起こすことが多いものです。 

感情心理学については、こころ検定4級の第6章で概観していますので、興味・関心のある方は、是非、勉強してみていただければと思います。 


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この記事を執筆・編集したのはこころ検定おもしろコラム編集部
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